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AIの活用で効率的な配達コースをつくる!経路最適化プロジェクト

コープさっぽろは、2021年8月より、北海道大学発ベンチャー企業「株式会社調和技研」と共同で、配達コースをAIが最適化する経路最適化プロジェクトに取り組んでいます。

どんな課題を解決するために経路最適化を検討する必要があったのか、実際に導入してどんな成果があったのか、理想と実態のギャップをどう乗り越えていったのか……。デジタル推進本部システム部で宅配チームのリーダーを務める重田真志さんにお話を伺いました。

脱属人化! AIを活用した経路最適化プロジェクト

ー 重田さんは宅配チームのリーダーとして、経路最適化プロジェクトに携わっていると聞きました。そもそも「経路最適化」とはどのような試みでしょうか?

重田:コープさっぽろの宅配システム「トドック」はおよそ45万世帯の組合員さんに商品をお届けしており、配達コースや順序の管理をしています。

配達コースは組合員さんの加入や脱退などにより日々変化していくため、都度「改廃」というコースの調整を行うのですが、変更を積み重ねることにより徐々にコースに乱れが生じてしまいます。その乱れが大きくなったタイミングで数年に一度行う大規模なテコ入れ作業が「大改廃」という新規のコース決めです。

大改廃では、既存のコースに捉われずに最適なコースを考えるために、紙の地図を広げてお届け先を点で打っていきます。その後、改廃システムにインプットしていくわけですが、完了までには配達担当者総動員で約3ヶ月の作業時間を要します。

その負担をAIを活用した仕組みでカバーできないかと考えて、2021年8月からAI技術を強みとする北海道大学発ベンチャー企業「株式会社調和技研」と共同開発を始めました。これが経路最適化プロジェクトのスタートです。コープさっぽろはいろいろな会社とビジネスの取り組みをしていますが、ゼロから答えを探してつくっていく共同研究の取り組みは珍しいと思います。

ー プロジェクトのチーム体制について教えてください。

重田:経路最適化プロジェクトは、宅配事業本部、システム部、調和技研さんの3者で役割を分担しています。プロジェクト全体のけん引と事業課題の言語化などをしているのが宅配事業本部です。

私がリーダーを務めるシステム部の宅配チームは、実際にコープさっぽろのシステムのどんなデータを抽出して提供するのかを考えたり、調和技研さんに計算いただいた結果を確認・調整するツールをつくったり、といったシステム面を担当しています。

調和技研さんは、宅配事業本部からの要件をくみ取ってさまざまな計算アルゴリズムを開発したり、システム部から提供されるデータを使って最適化計算をしたりする、AI利活用の先導役です。

ー 具体的に、どんな方法で最適なコースを決めるのですか?

重田:まず、コープさっぽろが持っている配達コースの管理システムから必要なデータを抽出して、調和技研さんに渡します。調和技研さんでルールに基づいてデータを入力してもらい、計算結果を戻してもらって、こちらでまた取り込み直すのが基本の流れです。

「距離が短いこと」をよしとするか、それとも「配達時間の見込みが短いこと」をよしとするかといった優先順位もありますし、1コースあたりの配達件数に上限を設けたり、なるべく大きな道路をまたがないようにしたり、といったコース条件もあります。

また、経路最適化に加味する要素として「片側配達」と「両側配達」があることも特徴です。お宅の前にトラックを停めるときもあれば、2軒隣り合っていたら真ん中に停車して両方に配達することもあります。

あるいは、交通量が少ない住宅エリアなら、左側に停車して道路の両側に配達することも可能です。そのため、道路レベルや道幅が記された道路ネットワークデータを参照して、片側か両側かの判断をする必要があります。

そうしたさまざまな要件に基づいて調和技研さんにシステムを組み上げてもらい、こちらから渡したお届け先のリストに対して、どういうコースの分け方をするのがよいか、どういう順番で回ると効率的かという結果をAIに出力してもらう仕組みです。

より最適な結果を得られることにフォーカス

ー プロジェクトは2021年8月にスタートし、現在も継続中とのことですが、どのようなゴールイメージを描いているのでしょうか?

重田:コープさっぽろは、各センターの下にブロックという単位があり、各ブロックの下にコースがあるという階層構造です。プロジェクトが開始した2021年8月の時点では、センター全体をテコ入れする「大改廃」とブロック単位で行う「小改廃」の両方で、最適化計算が業務にフィットするシステムを開発し、いつでも使いたいときに使えるような状態になることをゴールとしていました。

しかし、途中で「システム化を急ぐより、より最適な結果を得られることにフォーカスして、もっと追求し、精度が高まってから作り始めるほうがよいのではないか」と全体の方針を変えたこともあり、もう少し試験運用(部分的な機能の運用)が続く予定です。

今後は、お弁当を配達する夕食宅配サービスや灯油の配達など、コープさっぽろが展開する他の事業でもこの技術を活用できるように可能性を広げていきたいと考えています。

ー ここまでで大変だったことと、どうやってそれを乗り越えたかを教えてください。

重田:大変だったことはいろいろありますが、つまずいたのは理論と実態のギャップですね。何らかの評価指標に基づいてよい結果を出そうとするとき、たとえば、距離が短くなるように計算するのか、配達予測時間が短くなるように計算するのか、あるいは配送トラックの台数が少なくなるように計算するのか、などいろいろな考え方があります。

最初は、距離が短くなるように計算することに取り組みました。「既存コースで回るとこれぐらいの距離だったのが、新しいコースに組み替えるとこれだけ距離を短縮できる」というのはわかりやすい指標値だと考えたのです。

しかし、理論上はよさそうに見えても、果たして実際にそうなのか。それを確かめるために、実際に配送トラックに乗せてもらい、専用機材で距離を計測してみたところ、理論と実態のギャップがかなり大きかったのです。そうなると、「理論では距離がこれだけ短くなります」といっても、信憑性をどう測ったらいいのか悩ましくなってしまって……。

そこで、理論と実態のギャップを正確に計って指標に含めるのは今向き合うべき課題ではないと考え、まずは実際に現場で取り入れてもらうことにしました。感覚的にビフォーアフターでよくなっていればOKとし、根拠づけは後回しにしたんです。実態に焦点を当てることで、プロジェクトを推進でき、3つのセンターで経路最適化ができました。

あえて100点を目指さない戦略が成果につながった

ー 3つのセンターでAIを用いた経路最適化を行ったことで、どんな成果が出ていますか?

重田:最初は特にコースが乱れているセンターをターゲットにしていたので、導入後は配達にかかっていた時間が10%も削減できました。それにより職員の残業時間を減らせたり、組合員さんへのフォローに充てる時間に転換できたりしたことが大きな成果だと感じています。

また、大改廃そのものも、今までは3ヶ月がかりでしたが、AIを導入したことで約1ヶ月の作業時間短縮を実現できました。以前はセンターの職員全員で手作業をしていたのが、数名のマネージャーと調整するだけで済むようになって、80〜90%の工数削減に繋がりました。

ー 重田さんご自身は、このプロジェクトを通じてどんな気づきや学びがありましたか?

重田:プロジェクトに取り組んでいく中で感じたのは、こうしたAI分野や探索計算においては「何点を目指すか」という設計が重要になってくることです。最適化の計算結果で、もちろん100点が取れたらいいんですが、100点を目指すと何年かかっても仕上がりません。

なので、100点を目指すのでなく、たとえば、まずは60点、70点くらいを目指して、そこから人が確認や訂正をする量を減らすための調整をしたり、より具体的な課題を見つけて解決したりして80点くらいにもっていこう、といった考え方になります。

そこで必要になってくるのが「100点を目指さずに何点を目指すのか」という戦略です。実際にやってみると、60点はすぐに取れるけれど、80点を取るにはその2倍の時間がかかることもありました。「成果」と「かける時間」が一定ではなく、戦略の必要性を痛感しましたね。

ー 最後に、さらなる改良に向けて取り組んでいることがあれば教えてください。

重田:宅配に関して、今回のプロジェクトで大改廃を実施したセンターは、3つとも札幌近郊の都市部エリアでした。もちろん、宅配は地方でも行っており、場所によっては最初のお届け先まで1時間以上トラックを走らせることもあります。

都市部のように1本の通りに組合員さんのお宅が10軒あるといった位置関係ではないので、1件あたりの距離も非常に長いです。そうなると最適なコースの組み方も変わってくるため、現在は地方でのシステム利用に向けた追加要件の洗い出しを進めています

灯油の配達事業では、タンクローリーへの給油が新しい要件として入ってきます。コースを組んだら最初から最後まで通しで行けるわけではなく、たとえば、20軒回ったら途中で給油をしてまたコースに戻るといったことが発生するのです。配達先だけで考えるといいコースでも、給油所との位置関係によっては効率が悪くなってしまうこともあります。

また、先ほど片側配達と両側配達の話をしましたが、灯油の場合に両側配達はあり得ません。給油のホースを伸ばすときに道路をまたぐわけにはいかないからです。まだ要件定義の段階ではありますが、そういった個別要件も考えながら、実態に合うように調整を進めていくことにおもしろさを感じています。

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経路最適化プロジェクトは現在も継続中ですが、全センターに導入されれば、今まで以上に組合員さんのニーズに応えられるだけでなく、職員の働きやすさにもつながるでしょう。コープさっぽろでは、そんな豊かな未来をDXで一緒に実現する仲間をお待ちしています!

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