コープさっぽろ CIO 長谷川秀樹です
コープさっぽろ 非常勤CIOに長谷川秀樹さんが就任しました。長谷川さんは、東急ハンズ、メルカリのCIO(最高情報責任者)を歴任し、昨年11月に独立。複数企業でデジタル化を担いたい、仕事くれと宣言していました。
――なぜ、コープさっぽろで働くことになったのでしょうか?
いくつか理由があります。きっかけは、ベンチャー系のカンファレンスで、対馬さん(コープさっぽろ執行役員 対馬慶貞)に出会ったことが始まりで。
――偶然出会ったということですか?
いわゆる、「計画された必然」というものだと思っています。これは、全ての事象で言えることですが、本当の偶然というものはない。全ては、自分の意思ある行動の延長線上にあるものが偶然に見えるだけです。
サラリーマンのステップアップは、社内で昇進することとなっています。これ自体は悪いことではないんですが、問題は、社内だけで人生を過ごしていると、何がフツーなのかわからなくなる、ということです。
企業として進むべき方向と社内慣習の見分けがつかなくなり、自分は正しい(社内政治・慣習なんか関係ない)と思っているのに、実際は、社内慣習にまみれたリーダーシップになっている、というものです。
私のメンターであるパラレルマーケターの小島さんも、「外の物差し」が重要だと言っています。「何が、フツーなのか」、これを自分に自然と刷り込むために社外の人と会っているわけです。「何が、重要なのか」じゃなくて、「何が、フツーなのか」です。なぜなら人間は、「フツーこうですよね」と思っていることを実行に移します。
なので、私は積極的に社外との繋がりには出るようにしていますし、皆さんにもオススメです。
――そんな活動の中で対馬さんと出会われたわけですね
そうです。対馬さんから声がかかったのは、偶然ではなくこういった活動がベースにあったからというのもあると思う。対馬さんも外へ出て、人とのネットワークを大事にし、それを社内で実行する人だからね。
――写真、めちゃくちゃ楽しそうですね。
でしょ(笑)。実は、前々から、自分の人生の方向性として「旅をしながら働きたい」と考えてたの。ただ、作家じゃないし、いきなりは無理やから、まずは東京と北海道の2拠点生活とか。それも旅やなと。
それに、昔から食関連の仕事をやりたかったんだよね。生産者、流通、レストラン、スーパー、何にしろ、食に関わる仕事がしたい。そんな中、対馬さんに「養老牛放牧牛乳」を飲まされて、一瞬で心を奪われたね。
――すごい! 濃厚すぎてもはやヨーグルトです。
それから、コープさっぽろは多くの事業をやっているのだけど、みんな人がいい。特に印象的だったのは、資源循環型事業を行うエコセンターで見た風景。ダンボールをコチコチに固めるルービックキューブ状の巨大なマシンがあるんだけど、当然ながら粉塵が出る。俺なんかは、「誰も見てないから一日の終りに掃除すればいいや」と思ってしまうんだけど、ここの担当の方は、こまめに掃除して、常にきれいにしているのね。そういう姿勢にも惹かれたね。
――そういえば、そもそも、なぜ長谷川さんはそこまで企業のデジタル化に熱意を燃やしているのでしょうか?
「好きなこと」と「得意なこと」の交差点だからなのかも。改善することはもともと好きなんだけど、年月を経て得意領域になった。
20代のときは得意だとは思ってなかった。一生懸命やってたけども、得意(人よりも自分の方が長けている)とは思えなかった。今考えると、自分の考えを実行できる場がなかったから自信が持てなかったんだと思う。
自分の意識が変わったのは、東急ハンズに行って部長職になり、決裁権を持ってたまに経営会議にも出るようになった頃かな。そこで、自分の考えを実行し、成果が出ると、「自分の考えややり方で結果が出せるようになるんだ」と自信がついた。そこから自分の意識が大きく変わった気がする。
なかなか難しいかもですが、私の会社人としてのオススメは、「会社全体を見渡せるポジションになる」「決裁権限を持つ」「自分の考えを組織として実行する」、これをなるべく早く経験すること。「なるべく早く」が重要なポイントです。
ここらのキャリアについては、また別で話したいねぇ(笑)。何にしろ、今の仕事は得意領域になっていますね。
――2月から実際にコープさっぽろで働き始めて、いかがですか?
他社と比較して、改善、改革に前向きな人が多い。基本、大きい会社は総論賛成各論がグネグネしてなかなか動かないことが多い。人って、今までのやり方を変えるのが一番難しい。新参者の案に「そうかもしれないですね」なんて、人間なかなか言えないよ。普通は拒否反応を示す人もいたりして、ひとつひとつ時間をかけて進めることになるんじゃないかな。まあ、対馬デジタル推進本部長がイケイケなんで、みんな文句言えないのが一番効いているね(笑)
経営会議にあたる本部長会議もいい感じ。長ったらしい説明や自慢のような会話はなく、議論も活発。一時間あたりの議題数は他社より多いと思う。
対馬さんの証言
以前のコープさっぽろにおける情報システム部門の役割は、主に事業側の要望をベンダーに伝え、見積もりをとることでした。それを今、長谷川さんの力を借りて、一気に事業を変革する部門に変えていこうとしています。長谷川さんは、「誰もブーブー言わない」と言いますが、長谷川さんがベンダーに対して恐ろしいツメをしている姿を見てしまったので、誰も刃向かえないんです(笑)。
コープさっぽろのデジタル化の現在地
――コープさっぽろの情報システムの現状を教えて下さい。
まあ、そこはなかなか言いにくい部分あるけども。一般的な3000億企業と同じような感じ。ベンダー依存が強く、インフラはオンプレで、業務も紙が多くて、コミュニケーションは電話かFAXかメール、ワークフローも紙、ネットワークは10MBなのに何十万円もする専用線が敷いてある……みたいな。
――デジタル化に向けて、まずどこから着手しますか?
システムは建物と同じで、まずは土台であるインフラがしっかりしていることが大前提。ここはちゃんとやらないと、後からボディーブローのように効いてくるのよ。ボディーブローのように。
例えば、今、「G SuiteのMeetでテレビ会議をしよう!」ってなるわけ。でも、PCが古すぎて動きません……とかね。だから、PCは総入れ替え、ネットワークも全とっかえ、セキュリティも刷新する。今は100%オンプレだけど、100%AWSに移行しようとしてる。そして、インターネットテクノロジーを中心とした技術で、システムアプリケーションを作りまくる。
――潔いですね! 長谷川さんらしい。
もう一つ重要なのが、「情報システム部がグリップを取り戻す」ということ。自社でしっかりと業務改革・システム改革をグリップする体制にしていきます。
だから今、AWSの経験があるエンジニアを採用して、自社開発していこうとしてる。オンプレから移行する部分と自社開発する部分、同時並行でやっていくよ。
バックオフィスに関しては、コミュニケーションは当然ながらG Suite、Slack。人事系(人事、評価、給与、勤怠など)を皮切りに、基本SaaSに切り替えようとしてる。絶対にSaaSがいいよ。作ってる場合じゃない。
生協にあって、スーパーにない優位性
――お客さま向けのサービスは、どうデジタル化していくのでしょうか?
生協は、主力の宅配事業、スーパーマーケット事業だけではなく、保険、レクリエーション、旅行、灯油販売、配食、もうさまざまな事業があるのね。ただ、それらが縦割りになっているので、一気通貫の横串にしたい。
また、宅配は、紙での注文が主力になっているけども、スマホなどで注文したい人向けにデジタル化を推進したい。重要なのは、お客さまに選択肢を提供すること。もう、アナログ vs. デジタルじゃない。共存の世界だから。
それから、ここは強く言いたいところなんだけど、小売業界で「オムニチャネル」って言葉があるじゃんね。実際、オムニチャネルの潜在能力含めて、理想に一番近いのは、生協だと思うね。
――それは、どういうことでしょうか?
例えば、スーパーはOMO(Online Merges with Offline)と言いながら、宅配事業は赤字なわけ。店舗ピックアップにしても、倉庫ピッキングにしても、スーパーにとっては従来のビジネスにコストがオンされた状態なのよ。
一方、生協はもともと物流システムを有し、宅配事業をやっている。しかも、何曜日の何時に配達するって勝手に決めて届けちゃうわけ。これはね、DNA的にスーパーにはできない。注文が入ったらいち早く届けるということを徹底的にやってきたスーパーは、「こちらから配達日を指定するなんてお客さまに失礼だ」と考えるだろうし、今まで頼んだらすぐ来たのに、そうでなくなったら必ずクレームが入るでしょう。「ほれ見たことか」となって続かないと思う。
生協のすごいところは他にもあるよ、事前注文の仕組みとかね。メーカーから流通、お客さまのところまで、全体サプライチェーンのどこかに無理があるとそれがコストオンになり、誰かが負担するわけだけど、それを平準化できているのはすごい。例えば、一週間前に注文をするということは、ロスが出ない。注文があったものだけ仕入れるんだから当たり前なんだけど、これを実行するのは難しいことだよ。
これは対馬さんのアイデアなんだけど、日常的にスーパーを選んで買い物する人も、決して重い荷物を運びたいわけではない。だったら、生鮮食品はスーパーで、重い物はスマホで生協に発注して届けてもらう、そんなスタイルを提案できたらいいなって。
こういった仕掛けは、店舗と物流を持ってる生協だからスムーズに実現できること。競争優位性を生かして、ぶっちぎり、誰もまねできないところまで固めていきたいね。
コープさっぽろは、デジタルトランスフォーメーションの教科書になる?
――長谷川さんの話を聞いていると、デジタル化できていないネガティブな側面よりも、可能性のほうを強く感じますね。
その通り。3000億企業として、ぶっちぎりで「デジタルをうまく使っている企業」にしたいと思ってるし、今のところ「できるな」とも思っています。
例えば、GoogleのBeyondCorpって考え方あるよね。あれを自社にも適用していこうとすると、「あれはGoogleだからできることであって、うちでは無理だよー」というのが一般的な3000億企業の情報システム責任者の考え。そこらじゅうにそういう考え方がある。
「一足飛びにやる」、これが重要です。フツーの企業が、「他社の導入事例もないしちょっとまだ早いんじゃないか」と尻込みをする領域。ここにいち早く突っ込んでいく。他社がやってからじゃ意味がない。ビジネスも同じですよね?
差別化が重要と言いながら、一方で他社の事例がないと心配で何も決定、実行しない。このダブルスタンダードが一番企業経営をダメにしているところ。幸いなことに、コープさっぽろの大見理事長は、先見性の塊のような人ですから、ものすごくやりやすいです。
ーーまずは、どこに注力されますか?
今、注力しているのは、「仲間つくり」。AWS上でコープさっぽろのシステムアプリケーションを自社開発するエンジニアを募集しています。現場があり、そこに対して最新の技術で解決をしていく――結構おもろいので、ぜひジョインしてほしいです。募集のリンクも貼っておきますね。
https://www.wantedly.com/companies/company_7505384
今、札幌に住んでいる人もそうですが、ほんまは札幌で働きたかったなーと思っている人もぜひ、これを機会にいかがでしょうか。地方には仕事がないと諦めているエンジニアも、ぜひ一緒にやっていきましょう。
今回、エンジニア向けに、働き方、制度、報酬なども相当変更する予定です。ここらへん、コープさっぽろの経営、管理本部は本当に理解のある陣営が揃っていると思いますね。フツーの企業では、反対されて沈没ですよ……。
――新型コロナウイルスの影響で、生協が地域に果たす役割はさらに大きくなっていると思います。同時に、デジタル化を担う長谷川さんへの期待も高まっているはず。意気込みを聞かせてください。
・お客さま(組合員)にとって、より良いサービスを提供できる企業になること
・従業員が気持ちよく働けて、生産性も向上する仕組みを作ること
を基本として考えていきたいです。
そして、これは結果としての副次的効果ですが、デジタルトランスフォーメーションの教科書になるような実行ができれば良いなとも思っています。
コープさっぽろのブログでも、取り組みを赤裸々に紹介していきたいね。もちろん、我々のやることが唯一の正解なわけではないですが、成功、失敗を含め、他の情報システム部のリファレンスの一つになれればと思ってる。
新型コロナウイルスの影響で、「ニューノーマル」という言葉が出てますが、この言葉に便乗して、コープさっぽろの仲間といろいろ一足飛びにアップデートしたいですね。