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Samurai、大地に立つ

動き出したコープさっぽろのDX。CIOに就任した長谷川秀樹氏は、「クラウドシフト」を掲げ、AWS経験のあるエンジニアを積極採用し、ゼロイチでシステムを組み上げるエンジニアリングチームを組成すると宣言した。その理由は……

長谷川 よっしゃ、じゃあインフラは100%オンプレから100%AWSにいったるわとなったときに、ハタと思ったわけ。「俺ってAWSの中身わかってなくね?」って。それで、まずはエンジニアリングチームを組成しようと。クラウドって、自分たちでやってこそ効果が最大化できるというのが俺の持論だから。

それで、仲間探しを始めたわけ。まずは、元AWSで現ソラコム代表取締役社長の玉川憲さんに、「元AWSのソリューションアーキテクトで北海道行きたい人とかいないですかね」と相談した。そうしたら、「長谷川さん、北海道に田名辺さんという方がいらっしゃいましてね」と。

田名辺さん……聞いたことあると思ったら、2012年の初代AWS Samuraiやんけ!

次に、AWSのシニアエバンジェリスト 亀田治伸さんに、「AWS辞めそうな人おらへん?」と聞いたら、こちらも「いや、その前に北海道には田名辺さんという方がいらっしゃいましてね」と。間違いない二人からエンドース入ってるやん。田名辺さんは何が何でも仲間に入れるしかないと思った。

対馬さんに話したら、「それはすごい! すぐ声掛けに行っちゃいましょう!」と。

一人目のSamuraiは、「半農半ITエンジニア」田名辺健人さん

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長谷川 早速、田名辺さんのオフィスで顔合わせしたんだけど、対馬さんは、「俺はこんなことがやりたいんだ!」ってわーわー言ってるし、田名辺さんは農業の話しかしないし、全然噛み合ってるように見えない。「これは破談になりまんな」と思ったね。

あとで対馬さんにどうしようか聞いたら、「絶対に田名辺さんにお願いしたい」と。もうね、何をもってそう思ったんだか全然わからんけど。

対馬 「絶対にこの人だ」って思ったポイントがあるんです(笑)

システムのプロってたくさんいると思うんです。でも、業務への理解がない人がシステムを構築して、結局使えないものができあがったというケースはそこらじゅうにありますよね。「事業に情熱があって、事業をどうにかしたいからシステムをなんとかする」、この順番が覆ってしまうと元も子もないんです。

田名辺さんは、「半農半IT」を掲げ、北海道で農業をやりながら、IT、特にアグリテックの領域で活躍されています。オフィスを訪ねてみると、自然豊かなゴルフ練習場の一角で、北海道で最も重要な農業について熱く語っている。そしてその間、ディスプレイには地球の裏側ブラジルのアグリテックについて投影されている――この人は、「ITの話は地球上のどこにいてもできる」というのを体現しているんだって思った。

長谷川さんのことも、「この人すげーいいな」と思った瞬間があるんです。初めてコープさっぽろの店舗にお連れしたとき、長谷川さんはバックヤードのシステムを見るんじゃなくて、ずーっと商品を見てたの。

長谷川 特に乳製品な。

対馬 長谷川さんが一番テンションが上がったのは、「養老牛放牧牛乳」を飲んだ瞬間。最高に幸せそうな顔をして、結局システムの話は一切しなかった。まず業務を深く知ろうとしてくれたことが、「この人しかない」と思った決め手なんです。

長谷川 田名辺さんは、最初に対馬さんの話を聞いたとき、正直どう思った?

田名辺 「内製でやる」と聞いたときの第一印象は、「すげーな」と。ちょうど、『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」』(日経BP)を読んでいる最中で、「これは地雷案件に違いない」と思いました(笑)

そして、「なぜ僕なのかな?」とも。僕はずっとスタートアップでやってきた人間で、コープさっぽろのようなエンタープライズ企業とは正反対の環境で働いてきましたから。

でも、そこで長谷川さんが出てきたのがすごい衝撃で。長谷川さんを連れてきてるってことは、コープさっぽろは本気なんだなと。そして何と言っても、コープさっぽろの未来について話す対馬さんの目のギラギラ具合。真剣さがすごく伝わってきました。

そこで発想を変えて、「僕に何ができるだろう」と。僕がやってきたスタートアップのアジャイル開発を、エンタープライズ企業に浸透させたらどうなるんだろう。僕がこれまでさんざん苦労してきたヒト・モノ・カネ……それが潤沢にある環境で、何ができるだろうと。

スタートアップは命がけです。キャッシュが尽きればすべて尽きる。コープさっぽろで飛び交う金額は、僕のこれまでの環境とは一桁も二桁も違う。キャッシュがあるって本当にすごいこと。いまだに信じられない。でも、潤沢がゆえ、ハングリーさがない。そこをどうハングリーにできるかは興味があるし、ここに自立したエンジニアリングチームができたら最強だろうなと。

長谷川 確かに大企業では、一システム一年半で1億かかるとかいう提案はザラ。田名辺さんに期待してるのは、極端に言えば、「それAWSなら一人でもできまっせ」みたいな発想。金突っ込んでドーンとやったらええものができるって時代じゃないんやでって。俺は田名辺さんと、reinvent的にやっていけるエンジニアリングチームを作っていきたいのよ。

田名辺 僕もまだ小売の業務にそこまで詳しくないですが、これから入ってくるエンジニアもそういう方が多いでしょう。でも、小売ってみんながユーザーになれるんですよね。僕自身、以前からトドック(コープさっぽろの宅配)ユーザーだし、そういう意味では、日常的にドッグフーディングしています。興味を持って見れば、改善のアイデアがたくさん浮かんでくると思うんです。

長谷川 コープさっぽろがやりやすいのは、執行役員である対馬さんが、デジタルもリードしていること。「やべーよ、今これやらないとやべーよ」一本で経営会議を通しちゃう。エンジニアからすると、「この業務課題をエンジニアリングで解決したい」と思ったときにグダグダ言われたら一気にテンション下がるじゃない。俺らの武器「歩」は対馬さん。この人は前に進むことしかできません。

二人目のSamuraiは、「広島の悪童」丸本健二郎さん

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長谷川 丸本さんはね、ある日、Facebookを眺めていたら、「広島の悪童」と呼ばれた男が独立しましたという投稿が目に入ってきてね。

対馬 その頃の長谷川さんは、ほぼ毎日、丸本さんの話をしていたもんね。

長谷川 小売出身でAWSやってはる。さらに、2018年のAWS Samuraiですよ。丸本さんはすごい戦力になる。絶対にコープさっぽろに来てほしい。もう一本釣りしかありませんわ。

丸本 長谷川さんから声が掛かったときは、「あの変態から声が掛かった」と(笑)。時間軸がおかしいというか、未来を生きている人というか、そういう人と仕事ができたら絶対に面白いだろうなと直感しました。

独立して、すでにお仕事をたくさんいただいていたのですが、まだ土日があるなと。二つ返事でOKしました。長谷川さんには、「まずはちと北海道に来て、実際に仕事を見たほうがええんちゃう?」と逆に心配されたくらい(笑)

だけど、独立するときに思ったんですよね。「これからは、やりたい仕事を、やりたい人とやりたい」って。だから、長谷川さんとやりたい。そんなシンプルな理由です。

長谷川 俺らはもともとFacebook友だちだけど、リアルで会ったことはなかったんよね。オンラインで絡んだことも一切なかった。ここで出てくるのがまたエンドース。武闘派CIOのフジテック 友岡さんが、いつだったか丸本さんのことを「アイツはええじゃけー」ってすごい褒めてたのよね。

対馬 いざコープさっぽろに入ってみて、どうですか?

丸本 詳しくはまた別でお話しようと思いますが、やっぱり面白いですね。

高齢化社会に加え、新型コロナの影響で宅配ビジネスはますます需要がありますし、物流を使った圧倒的なビジネスモデルはマジで尊敬します。

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写真)江別市の物流センターでは、自動倉庫型ピッキングシステムのオートストアが導入され、生産性を高めている

また、事業は旅行、保険、葬儀など、小売以外にも多角的に展開していて、いろんな事業の掛け合わせで新結合を起こせそうなドキドキ感。ここは対馬さんの創造力がヤバい。

それから、飲むヨーグルト。今まで特段美味しいと思ったことはなかったのに、コープさっぽろの飲むヨーグルトは別格でした。これなら毎日飲みたいです。

また、北海道全域で約181万人の顧客(組合員)データが蓄積されている点にも可能性を感じます。データを持っているだけではなく、事業を通じて、エンゲージメントというんですかね、顧客との距離が非常に近い。One to Oneマーケティングって、データを集めるのところからすごい難しくてなかなかうまくいかないと思うんですけど、「ここなら実現できるんじゃないか」と思えました。

田名辺 「農家の収入を上げたい」という思想も素晴らしいよね。コープさっぽろ店内にある「ご近所野菜」のコーナーは、出品する農家の方が自分で金額を決めて、売り上げの8割が農家の収入になる。農家が主導権を持てるのはすごい。知り合いが出しているんだけど、僕もいつか出したいなぁ。

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長谷川 俺は、丸本さんが選んだキャリアもポイントだと思ってる。自分の好きな領域と得意な領域、その融合するところで生きていくというのは、他のエンジニアの参考にもなるんじゃないかな。丸本さんが、「俺の得意分野はこうで、それで飯を食っていく」みたいなロールモデルになってくれたら嬉しいな。

それから、プロほど「これはもともとこうじゃん」って既存の常識で考えがち。思い込みのせいでreinventが起こらない。丸本さんは、前職リテールだけど、コープとはやっていることが違うし、プロフェッショナルな視点を持ちながら、いい感じに常識を壊してくれるんじゃないかと思ってる。

キャラ的にも、忖度せずにハッキリものを言うタイプ。バイオレンスなヤツが来て大丈夫かなってのはあるけど、そういうところも期待してる。

ちなみに、長谷川氏は、2015年のAWS Samuraiである。かくして、3人のSamuraiが北海道の大地に立った。

Samuraiたちを待ち受けるのは、55年の歴史で危機感なく投資を繰り返し、膨れ上がった大規模かつ重厚なIT資産。その牙城をどう切り崩すのか、切り崩した先にどんな未来が待っているのか。Samuraiたちの冒険は、まだ始まったばかりだ。

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